アクリルの下地に使える地塗り剤の種類と比較

アクリル絵具で作品を描く際、見落としがちな工程のひとつが「下地づくり」です。

どんなに高品質な絵具を使っても、適切な地塗り剤(下地剤)を選ばなければ、発色や定着性、耐久性に大きな差が出てしまいます。

本記事では、アクリル絵画に適した地塗り剤の種類と特徴を比較しながら、どのような目的でどの地塗り剤を選ぶべきかを解説します。

初心者の方からプロのアーティストまで、制作のクオリティを高めたい方に役立つ情報をまとめました。

地塗り剤(下地剤)とは?

地塗り剤とは、絵を描く前にキャンバスや紙、木板などの支持体に塗る下地のことです。

以下のような役割があります。

  • 吸収性の調整:支持体が絵具を吸いすぎるのを防ぐ
  • 絵具の発色向上:色が沈まず鮮やかに見える
  • 定着性の強化:絵具の剥がれを防ぐ
  • 支持体の保護:酸や湿気などから素材を守る

アクリル画の場合は、アクリル絵具との相性の良い下地剤を使うことで、より長持ちし、美しい表現が可能になります。

よく使われるアクリル下地剤の種類と特徴

1. アクリルジェッソ(Acrylic Gesso)

特徴

アクリル絵画に最も一般的に使われる下地剤です。アクリル樹脂に炭酸カルシウム(白色顔料)などが混ざっており、不透明でマットな仕上がりになります。

メリット

  • 絵具の食いつきがよい
  • 塗膜がしっかりしている
  • 水彩紙やキャンバス、木製パネルなど幅広い支持体に対応
  • 白だけでなく、黒・グレー・カラータイプもある

デメリット

  • 吸収性がやや高いため、発色が落ち着くこともある
  • 乾燥後の塗膜がやや粗め(つるつるではない)

2. クリアジェッソ(Clear Gesso)

特徴

透明なアクリル地塗り剤で、支持体の風合いを活かしたいときに使われます。

メリット

  • 木目や下描きを見せたいときに最適
  • 絵具の発色をナチュラルに保つ
  • 上に描いた色をシャープに表現できる

デメリット

  • 白ジェッソよりもやや定着力が劣る場合がある
  • 支持体によっては吸収性が高くなりすぎることも

3. モデリングペースト(Modeling Paste)

特徴

厚みのある下地を作れる地塗り剤。立体感のあるテクスチャーを作りたいときに使われます。

メリット

  • 筆跡やナイフ跡を活かしたテクスチャーが可能
  • 絵に立体感と動きを加えられる
  • 上にアクリル絵具を重ねやすい

デメリット

  • ヒビ割れや乾燥収縮のリスクがある(厚塗り時)
  • 滑らかな表面が欲しい場合には不向き

4. 吸収性グラウンド(Absorbent Ground)

特徴

水彩やインクのようなにじみをアクリル絵具で再現したいときに有効。アクリル絵具でも透明水彩風のにじみ表現が可能になります。

メリット

  • にじみ・ぼかし表現に強い
  • 紙のような吸収性をキャンバスに与える
  • 水彩画風の表現に最適

デメリット

  • 絵具がすぐ吸い込まれるのでコントロールが難しい
  • 描画ミスの修正が難しい場合がある

5. アクリルメディウムを使った自作下地

特徴

マットメディウムやグロスメディウムを水で薄めて塗布することで、自分好みの吸収性を調整できます。

メリット

  • 好みの質感やツヤにカスタマイズできる
  • 複数のメディウムをブレンドして下地をコントロール可能

デメリット

  • 分量バランスが難しい(初心者には不向き)
  • 均一な塗布にはコツが必要

地塗り剤の比較表

地塗り剤発色吸収性テクスチャー支持体の透明度主な用途
アクリルジェッソややざらざら×標準的なアクリル画全般
クリアジェッソややざらざら木目や下描きを活かす
モデリングペースト厚みのある立体×テクスチャー表現
吸収性グラウンド非常に高なめらかにじみ・水彩風
メディウム(自作)◎~△調整可調整可調整可独自表現を追求

地塗りの塗り方と注意点

1. 塗る前の下処理

  • 木製パネルはサンディング(ヤスリがけ)してから
  • 紙は反りを防ぐためにテープで固定

2. 塗布回数

  • 一般的には2~3回重ね塗りがおすすめ
  • 各層ごとにしっかり乾かすことが重要(最低1〜2時間)

3. 塗る道具

  • 幅広の平筆やローラーが便利
  • モデリングペーストはナイフやヘラがおすすめ

どの地塗り剤を選ぶべきか?

作品の目的によって最適な地塗り剤は変わります。

  • 発色を重視したい → アクリルジェッソ+軽くやすりがけ
  • 木目や下描きを活かしたい → クリアジェッソ
  • 立体感を演出したい → モデリングペースト
  • 水彩のようなにじみを出したい → 吸収性グラウンド
  • 独自の質感を追求したい → アクリルメディウムの応用

まとめ:下地で変わる表現の幅

アクリル絵画において、完成度や印象を大きく左右するのが「下地づくり」です。地塗り剤は単なる下処理ではなく、表現の可能性を広げるための大切な準備工程です。選ぶ地塗り剤の種類によって、色の発色やテクスチャー、筆の滑り、さらには作品の耐久性までもが変化します。

例えば、明るく鮮やかな発色を望むならジェッソを選び、木目や下絵を活かしたいならクリアジェッソが適しています。また、立体感のある作品を作りたいときはモデリングペースト、にじみ表現を試したいときは吸収性グラウンドが力を発揮します。

どの地塗り剤にもそれぞれの特性と役割があり、目的に合わせて選び分けることで、あなたの作品は一層魅力的に輝きます。絵を描き始める前のこのひと手間が、作品全体の表現力と完成度を左右する重要な要素なのです。

「描く前に、作品は始まっている」この意識を持つことで、あなたのアートはより深く、個性的なものになるでしょう。ぜひ今回ご紹介した下地剤の特性を活かし、理想とする世界観をより確かなかたちで表現してください。

ABOUT US
満園 和久
3歳の頃、今で言う絵画教室に通った。その絵の先生はお寺の住職さんであった。隣町のお寺で友達の3歳児とクレヨン画を学んだ。 それ以降も絵を描き続け、本格的に絵画を始めたのは30歳の頃。独学で油彩画を始め、その後すぐに絵画教室に通うことになる。10年ほどの間、絵画教室で学び、団体展などに出展する。 その後、KFSアートスクールで学び油彩画からアクリル画に転向しグループ展や公募展等に出品し続け現在に至る。 ここ20年程は、「太陽」「富士山」「天使」をテーマにして絵画を制作。 画歴は油彩を始めてから数えると35年になる。(2024年現在) 愛知県生まれ 愛知県在住 満園 和久 (Mitsuzono Kazuhisa)