モチーフがなくても描ける抽象トレーニング|自由な発想を育てる練習法と応用テクニック

モチーフがなくても描ける抽象アートのトレーニング方法を徹底解説。線・色・形の遊びから作品に発展させるコツ、初心者が自由に描き始められる練習法を紹介。

1. はじめに|抽象画は「見えるもの」を描く必要がない

抽象表現は「モチーフの再現」から自由になれるアートジャンルです。
風景や人物を描かなくても、色・線・形・質感などの要素だけで作品が成立します。

とはいえ、
「モチーフがないと何から描き始めればいいかわからない」
「自由に描けと言われると逆に難しい」
と感じる方はとても多いです。

この記事では、モチーフがなくても自然に手が動き、作品としてまとめられる抽象トレーニング法 を体系的に紹介します。

アクリル・水彩・デジタルどれでも応用でき、絵の上手さよりも「感じる力」を磨くことが中心です。

2. 抽象画は「要素」で描く|モチーフなしの描画構造

具体的なモチーフがなくても絵が成立する理由は、絵画が以下4つの要素によって成り立っているからです。

● 抽象を構成する4つの基本要素

  1. 色(Color)
     明度差・彩度差・暖色冷色の組み合わせで感情を表現
  2. 形(Shape)
     丸・角・線・点などの抽象形態でリズムを作る
  3. 質感(Texture)
     厚塗り・薄塗り・にじみ・スクラッチなどの表情
  4. 構図(Composition)
     視線の流れ・余白のバランス・中心をどこに置くか

抽象画とは、これらの要素を 意識的に“配置する”アート といえます。

よって「描く対象がない」ではなく、要素同士をどう並べるか を描くのが抽象表現です。

3. モチーフがなくても描ける抽象トレーニング(基礎編)

ここから実践です。

最初は「考えずに手を動かす」→「意識的に整える」流れで訓練します。

トレーニング①:1分間ドローイング(線の感覚を育てる)

手順

  1. タイマーを1分に設定
  2. ペン・鉛筆・筆で 途切れずに描き続ける
  3. 曲線・直線・ループなど自由に動かす
  4. 仕上げようとしない

得られる効果

・線の癖が見える
・無意識のリズムが作品に活かせる
・描き始めの不安が消える

※プロの抽象画家も毎日行う“手のストレッチ”です。

トレーニング②:3色縛りの色面遊び

手順

  1. 好きな色を 3色だけ 選ぶ
  2. 塗りつぶし・重ね・ぼかしなど自由に配置
  3. 形を意識せず、色同士の関係性だけに集中

コツ

・明度差のある色を1つ入れる
・重色で自然な深みを作る

色の組み合わせだけで作品になるため、抽象の入り口として非常に取り組みやすい練習です。

トレーニング③:利き手じゃない手で描く

手順

  1. 利き手と逆の手に筆を持つ
  2. 1〜2分だけ線を引く
  3. その線を活かして作品化する

効果

・コントロールできない線が面白い
・新しい形の発見につながる

「予想外」が抽象表現の魅力を引き出してくれます。

トレーニング④:聴いている音楽を“線と色”に変換

手順

  1. 好きな音楽を1曲流す
  2. 曲のテンポ・強弱を線で描く
  3. 色は曲のイメージで選ぶ

効果

・感情の可視化
・音→線→作品という抽象的思考が鍛えられる

4. モチーフなしで作品に仕上げるための応用トレーニング

ここからは作品クオリティを高める中級〜上級トレーニングです。

トレーニング⑤:ランダムテクスチャから発想する

手順

  1. スポンジ・布・指などでランダムにテクスチャを作る
  2. 乾く前後に色を重ねて変化を見る
  3. 気になる部分を“強調・減らす・つなぐ”で整える

使える技法例

・ドライブラシ
・スパッタリング
・ウェットオンウェット
・パレットナイフ

偶然が作品の始まりになるため、
モチーフに頼らない創造が生まれやすいメソッドです。

トレーニング⑥:見えた形を“抽象化”して残す

  1. ランダムに描く
  2. ふと「鳥っぽい」「波っぽい」など形を感じる
  3. その形を“残すor隠す”を選択し、作品構成を決める

抽象画は「具象っぽさ」が出ると作品に物語が生まれます。

トレーニング⑦:余白を意図的に使う構図練習

抽象画でも“配置”は非常に重要です。

練習方法

・画面の30%を必ず余白にする
・中心をずらしたバランスを試す
・三分割構図・黄金比構図に当てはめてみる

効果

・完成度が一気に上がる
・プロ作品らしい緊張感が出る

抽象画は“自由”であるほど構図の重要性が増します。

トレーニング⑧:1テーマだけ決める「感情抽象」

完全に自由すぎると迷ってしまう人向けの方法です。

テーマ例

・「喜び」
・「静寂」
・「光」
・「朝焼けの空気」
・「守られている感じ」

手順

  1. テーマから浮かぶ色を選ぶ
  2. その感情に合った線の表情を探す
  3. 画面全体に広げていく

5. モチーフがなくても“作品”に仕上げるための最終プロセス

ただ描くだけでは練習で終わってしまいます。
作品化するための最後の仕上げステップを紹介します。

① どこが“中心”か決める

抽象画でも「視線が集まる場所」が必要です。

・最も明るい色
・一番複雑な部分
・強い線
・色のコントラスト

どれか一つを中心として設定することで、
作品に“意思”が生まれます。

② 要素を引き算して整理する

抽象画は「削る」ことで美しくなります。

削るポイント

  • 主張の強い部分が2つ以上ある
  • 色数が増えすぎて調和しない
  • 同じ形が多く単調

不要な要素を削るだけで作品レベルは格段にアップします。

③ タイトルをつける(必須)

タイトルは抽象画の世界観を補完する重要な要素です。

タイトル例

・「光のリズム」
・「天使の余韻」
・「風の記憶」
・「静かな予感」

抽象作品は“意味の提示”が必要なため、タイトルによって鑑賞者が作品の意図を理解しやすくなります。

6. アクリル・ジクレー・デジタルでの具体的応用

アクリル

・ドライブラシで細いニュアンスを追加
・メディウムで透明層を積み重ねる
・テクスチャジェルで深みを出す

ジクレー作品化

・抽象作品は高解像度撮影で一気に商品レベルへ
・版ごとに色調整して“限定感”を演出
・エディション番号の魅せ方で価値が上がる

デジタル(Procreate / Photoshop)

・グラデーションマップで雰囲気統一
・レイヤーの“合成モード”で深い色表現
・ブラシミックスで偶然性を演出

7. 初心者がつまずきやすい悩みと解決策

悩み①:自由と言われると逆に描けない

→「1分間ドローイング」から始める

悩み②:描き込みすぎて汚くなる

→引き算思考+余白30%ルール

悩み③:意味がないように見える

→テーマを“ひとつだけ”設定する

悩み④:作品としてまとまらない

→中心ポイントを決め、色数を減らす

8. まとめ|モチーフなしこそ“あなたらしさ”が現れる抽象表現へ

抽象表現は「うまく描く」よりも“自分の感覚を信じる勇気” が最も大切です。

この記事のトレーニングを繰り返すことで、

  • 線のクセ
  • 色の選び方
  • テクスチャへの好み
  • 余白の感覚

など、あなた独自の“抽象的言語”が育っていきます。

ぜひ日々の制作に取り入れて、新しいシリーズ作品へ発展させてください✨

ABOUT US
満園 和久
3歳の頃、今で言う絵画教室に通った。その絵の先生はお寺の住職さんであった。隣町のお寺で友達の3歳児とクレヨン画を学んだ。 それ以降も絵を描き続け、本格的に絵画を始めたのは30歳の頃。独学で油彩画を始め、その後すぐに絵画教室に通うことになる。10年ほどの間、絵画教室で学び、団体展などに出展する。 その後、KFSアートスクールで学び油彩画からアクリル画に転向しグループ展や公募展等に出品し続け現在に至る。 ここ20年程は、「太陽」「富士山」「天使」をテーマにして絵画を制作。 画歴は油彩を始めてから数えると35年になる。(2024年現在) 愛知県生まれ 愛知県在住 満園 和久 (Mitsuzono Kazuhisa)