1色の絵具だけで描く「単色絵画」は、表現力を大幅に伸ばすトレーニング。明暗や質感、感情表現が磨かれ、初心者から上級者まで新しい発見が得られる技法。描き方やコツを紹介します。
【目次】
- 単色絵画とは?
- なぜ1色だけで描くと表現力が上がるのか
- 単色絵画がもたらす5つのメリット
- 初心者でも効果が出る「単色トレーニング」
- 使用する色の選び方とおすすめ絵具
- 単色絵画の具体的な描き方(ステップ形式)
- 単色で描く際に意識すべき「明暗/エッジ/筆跡」
- 単色絵画の応用アイデア
- 作品づくりをさらに深めるプロのコツ
- まとめ:単色は“制約”ではなく“解放”
1. 単色絵画とは?
単色絵画(モノクロームアート)とは、1色の絵具とその濃淡だけで完成させる作品のことです。
黒や青などの濃い色だけでなく、赤・黄・緑などの明るい色でも可能で、使う道具や技法の制約が少ないぶん、
- 光の捉え方
- 筆致の強弱
- コントラスト
- 質感表現
- 画面構成力
といった絵画の“基礎力”を大きく向上させるトレーニングにもなります。
また、色数が少ないことでかえって表現が洗練され、作品全体に統一感が生まれるのも特徴です。
2. なぜ1色だけで描くと表現力が上がるのか
多色で描くと、つい「色でごまかしてしまう」ことがあります。
しかし単色は、色相の差が使えないため“形”“光”“影”を正確に捉える力が自然と鍛えられます。
特に鍛えられる要素は次の3つ。
明暗を正確に判断する力
明るさだけで世界を見るため、光源や影の位置をより深く理解できます。
筆跡・テクスチャの表現力
色のバリエーションがないぶん、筆のタッチがそのまま表情になります。
情緒と雰囲気を作り出す構成力
単色作品は“ストーリー”が重要。
限られた情報で印象を残すため、構図や描き込み量の調整が磨かれます。
3. 単色絵画がもたらす5つのメリット
色による迷いがなくなり制作が早くなる
配色に悩む時間がゼロ。
その分、描写や構図に集中でき、制作スピードが向上します。
作品に統一感が出て洗練される
「色が喧嘩しない」ため、どんなモチーフでも完成度の高い雰囲気にまとまります。
材料費・準備が少なくてすむ
- 絵具1色
- 水(またはメディウム)
- 筆だけで描けるため、初心者にも始めやすい技法です。
どんな画材でも楽しめる
- アクリル
- アクリルガッシュ
- 水彩
- インク
- デジタル(Procreate・Photoshop など)
どれでも単色表現が可能です。
抽象/具象どちらにも向く“万能”表現
単色は「抽象画」と相性がとても良いですが、静物・風景・人物画にも応用できます。
4. 初心者でも効果が出る「単色トレーニング」
まずは“濃淡10段階”を作る
紙に、同じ色の薄い〜濃いまでを10段階で塗り分ける練習。
これだけで光のコントロール力がグッと上がります。
“真っ黒”と“真っ白”を避ける
最初は極端なコントラストを使わず、7割の明度の中で描いていくと作品が柔らかくまとまります。
モチーフは「球体・布・ガラス」がおすすめ
形の基礎がわかりやすいモチーフは、光の理解が早く育つため特に効果的です。
5. 使用する色の選び方とおすすめ絵具
安定感のある“定番色”
- ペインズグレー(Payne’s Grey)
→ 青みがかったグレーで、透明感と重さの両方が出せる - インディゴ
→ 深い幻想的な青で抽象画にも合う - バーントアンバー(焦げ茶)
→ セピア調で温かい雰囲気 - カーボンブラック
→ 力強さ・モノトーンの美しさが際立つ
おすすめ絵具
- Holbein(ホルベイン)アクリリックカラー
- Turner(ターナー)アクリルガッシュ
- Liquitex(リキテックス)
- Dr. Ph. Martin’s インク
- Procreate/Photoshop(デジタル)
6. 単色絵画の具体的な描き方(ステップ形式)
STEP① 下地づくり
- ジェッソで軽く整える
- もしくは紙に軽いスケッチ
単色作品は下地の色が最終的に響くため、白地が基本。
STEP② 大まかな明暗をざっくり配置
最初から細かく描かず、大きい影と光の塊をざっくり置く。
STEP③ 中間調を広く使う
単色の美しさは、中間の濃淡がリズムを作ること。
グラデーションを丁寧につくっていきます。
STEP④ 最後に“最暗部”を置く
絵の“締まり”をつくる工程。
影の一番深いところを強くすると、全体が立体的に。
STEP⑤ エッジ(輪郭)の調整
- くっきり見せたい部分は硬いエッジ
- やわらかく見せたい部分は筆やスポンジでぼかす
STEP⑥ タッチや質感を追加
- ドライブラシでザラつき
- 水でのにじみ
- スポンジで柔らかさ
- 布材でランダムテクスチャ
単色だからこそ質感が映えます。
7. 単色で描く際に意識すべき3要素
明暗(Value)
色相が使えないため、絵の印象は明暗のコントロールで決まります。
エッジ(境界の硬さ)
輪郭を硬くすると強さが出て、ぼかすと柔らかさが生まれます。
筆跡(Brushwork)
単色では、筆跡そのものが感情表現になります。
抽象表現との相性が非常に良いポイントです。
8. 単色絵画の応用アイデア
抽象画 × コントラスト強調
大胆な筆致と濃淡を組み合わせて、シンプルで強い作品を作れる。
風景の「夕暮れ」「月夜」シリーズ
青系・紫系の単色は幻想的な風景と相性抜群。
人物・ポートレートの感情表現
単色にすることで、人物の感情描写が際立ちます。
デジタルアートのカラープランニング
全体を単色でまとめると、世界観が一気に統一されます。
9. 作品づくりをさらに深めるプロのコツ
淡く薄く始め、徐々に濃くしていく
濃い色から始めると、修正が効きにくくなります。
画面の“余白”を味方にする
単色作品は余白の美しさが際立つため、全部を塗り尽くさない構成も良い選択です。
光源を1つに決める
明暗が混乱しないため、説得力のある作品に仕上がります。
テクスチャを入れすぎない
単色は“引き算の美”。
必要最低限で魅力が生まれることが多いです。
10. まとめ:単色は“制約”ではなく“解放”
1色だけで描くことは、色彩を削る制約ではなく、「感性の解放」です。
- 明暗
- 筆致
- 質感
- 構図
- 感情表現
これらの本質がクリアに浮かび上がり、画家としての基礎力が大きく伸びる技法です。
また、単色はインテリアとしても人気が高く、ミニマルで洗練された世界観をつくりやすいため、販売作品としての相性も抜群です。













