1色だけで描く「単色絵画」の可能性|色を削ることで生まれる“深み”と“自由”

1色の絵具だけで描く「単色絵画」は、表現力を大幅に伸ばすトレーニング。明暗や質感、感情表現が磨かれ、初心者から上級者まで新しい発見が得られる技法。描き方やコツを紹介します。

【目次】

  1. 単色絵画とは?
  2. なぜ1色だけで描くと表現力が上がるのか
  3. 単色絵画がもたらす5つのメリット
  4. 初心者でも効果が出る「単色トレーニング」
  5. 使用する色の選び方とおすすめ絵具
  6. 単色絵画の具体的な描き方(ステップ形式)
  7. 単色で描く際に意識すべき「明暗/エッジ/筆跡」
  8. 単色絵画の応用アイデア
  9. 作品づくりをさらに深めるプロのコツ
  10. まとめ:単色は“制約”ではなく“解放”

1. 単色絵画とは?

単色絵画(モノクロームアート)とは、1色の絵具とその濃淡だけで完成させる作品のことです。
黒や青などの濃い色だけでなく、赤・黄・緑などの明るい色でも可能で、使う道具や技法の制約が少ないぶん、

  • 光の捉え方
  • 筆致の強弱
  • コントラスト
  • 質感表現
  • 画面構成力

といった絵画の“基礎力”を大きく向上させるトレーニングにもなります。

また、色数が少ないことでかえって表現が洗練され、作品全体に統一感が生まれるのも特徴です。

2. なぜ1色だけで描くと表現力が上がるのか

多色で描くと、つい「色でごまかしてしまう」ことがあります。
しかし単色は、色相の差が使えないため“形”“光”“影”を正確に捉える力が自然と鍛えられます。

特に鍛えられる要素は次の3つ。

明暗を正確に判断する力

明るさだけで世界を見るため、光源や影の位置をより深く理解できます。

筆跡・テクスチャの表現力

色のバリエーションがないぶん、筆のタッチがそのまま表情になります。

情緒と雰囲気を作り出す構成力

単色作品は“ストーリー”が重要。
限られた情報で印象を残すため、構図や描き込み量の調整が磨かれます。

3. 単色絵画がもたらす5つのメリット

色による迷いがなくなり制作が早くなる

配色に悩む時間がゼロ。
その分、描写や構図に集中でき、制作スピードが向上します。

作品に統一感が出て洗練される

「色が喧嘩しない」ため、どんなモチーフでも完成度の高い雰囲気にまとまります。

材料費・準備が少なくてすむ

  • 絵具1色
  • 水(またはメディウム)
  • 筆だけで描けるため、初心者にも始めやすい技法です。

どんな画材でも楽しめる

  • アクリル
  • アクリルガッシュ
  • 水彩
  • インク
  • デジタル(Procreate・Photoshop など)
    どれでも単色表現が可能です。

抽象/具象どちらにも向く“万能”表現

単色は「抽象画」と相性がとても良いですが、静物・風景・人物画にも応用できます。

4. 初心者でも効果が出る「単色トレーニング」

まずは“濃淡10段階”を作る

紙に、同じ色の薄い〜濃いまでを10段階で塗り分ける練習。
これだけで光のコントロール力がグッと上がります。

“真っ黒”と“真っ白”を避ける

最初は極端なコントラストを使わず、7割の明度の中で描いていくと作品が柔らかくまとまります。

モチーフは「球体・布・ガラス」がおすすめ

形の基礎がわかりやすいモチーフは、光の理解が早く育つため特に効果的です。

5. 使用する色の選び方とおすすめ絵具

安定感のある“定番色”

  • ペインズグレー(Payne’s Grey)
     → 青みがかったグレーで、透明感と重さの両方が出せる
  • インディゴ
     → 深い幻想的な青で抽象画にも合う
  • バーントアンバー(焦げ茶)
     → セピア調で温かい雰囲気
  • カーボンブラック
     → 力強さ・モノトーンの美しさが際立つ

おすすめ絵具

  • Holbein(ホルベイン)アクリリックカラー
  • Turner(ターナー)アクリルガッシュ
  • Liquitex(リキテックス)
  • Dr. Ph. Martin’s インク
  • Procreate/Photoshop(デジタル)

6. 単色絵画の具体的な描き方(ステップ形式)

STEP① 下地づくり

  • ジェッソで軽く整える
  • もしくは紙に軽いスケッチ

単色作品は下地の色が最終的に響くため、白地が基本。

STEP② 大まかな明暗をざっくり配置

最初から細かく描かず、大きい影と光の塊をざっくり置く。

STEP③ 中間調を広く使う

単色の美しさは、中間の濃淡がリズムを作ること。
グラデーションを丁寧につくっていきます。

STEP④ 最後に“最暗部”を置く

絵の“締まり”をつくる工程。
影の一番深いところを強くすると、全体が立体的に。

STEP⑤ エッジ(輪郭)の調整

  • くっきり見せたい部分は硬いエッジ
  • やわらかく見せたい部分は筆やスポンジでぼかす

STEP⑥ タッチや質感を追加

  • ドライブラシでザラつき
  • 水でのにじみ
  • スポンジで柔らかさ
  • 布材でランダムテクスチャ

単色だからこそ質感が映えます。

7. 単色で描く際に意識すべき3要素

明暗(Value)

色相が使えないため、絵の印象は明暗のコントロールで決まります。

エッジ(境界の硬さ)

輪郭を硬くすると強さが出て、ぼかすと柔らかさが生まれます。

筆跡(Brushwork)

単色では、筆跡そのものが感情表現になります。
抽象表現との相性が非常に良いポイントです。

8. 単色絵画の応用アイデア

抽象画 × コントラスト強調

大胆な筆致と濃淡を組み合わせて、シンプルで強い作品を作れる。

風景の「夕暮れ」「月夜」シリーズ

青系・紫系の単色は幻想的な風景と相性抜群。

人物・ポートレートの感情表現

単色にすることで、人物の感情描写が際立ちます。

デジタルアートのカラープランニング

全体を単色でまとめると、世界観が一気に統一されます。

9. 作品づくりをさらに深めるプロのコツ

淡く薄く始め、徐々に濃くしていく

濃い色から始めると、修正が効きにくくなります。

画面の“余白”を味方にする

単色作品は余白の美しさが際立つため、全部を塗り尽くさない構成も良い選択です。

光源を1つに決める

明暗が混乱しないため、説得力のある作品に仕上がります。

テクスチャを入れすぎない

単色は“引き算の美”。
必要最低限で魅力が生まれることが多いです。

10. まとめ:単色は“制約”ではなく“解放”

1色だけで描くことは、色彩を削る制約ではなく、「感性の解放」です。

  • 明暗
  • 筆致
  • 質感
  • 構図
  • 感情表現

これらの本質がクリアに浮かび上がり、画家としての基礎力が大きく伸びる技法です。

また、単色はインテリアとしても人気が高く、ミニマルで洗練された世界観をつくりやすいため、販売作品としての相性も抜群です。

ABOUT US
満園 和久
3歳の頃、今で言う絵画教室に通った。その絵の先生はお寺の住職さんであった。隣町のお寺で友達の3歳児とクレヨン画を学んだ。 それ以降も絵を描き続け、本格的に絵画を始めたのは30歳の頃。独学で油彩画を始め、その後すぐに絵画教室に通うことになる。10年ほどの間、絵画教室で学び、団体展などに出展する。 その後、KFSアートスクールで学び油彩画からアクリル画に転向しグループ展や公募展等に出品し続け現在に至る。 ここ20年程は、「太陽」「富士山」「天使」をテーマにして絵画を制作。 画歴は油彩を始めてから数えると35年になる。(2024年現在) 愛知県生まれ 愛知県在住 満園 和久 (Mitsuzono Kazuhisa)