光の方向による影の違いを理解する

~絵画表現を豊かにするための光と影の基礎知識~

はじめに:なぜ光の方向が重要なのか?

絵画において「光」は単なる明るさを表すものではありません。

光の当たり方によって影が生まれ、物体の立体感や空間の深み、雰囲気までもが決定づけられます。

特に光の方向が変わると、影の形・濃さ・長さが大きく変化し、作品全体の印象にも大きな影響を与えます。

この記事では、光の方向ごとの影の特徴や、具体的な描き分け方を初心者にもわかりやすく解説します。

1. 光と影の関係を理解する基本

1-1. 影とは何か?

影とは、光が遮られた部分に生まれる暗い領域です。物体に光が当たると、反対側に光が届かない部分が生じ、これが「影」となります。

絵画では、この影を正確に描くことで、平面上に立体感を出すことができます。

1-2. 主な影の種類

  • 固有陰影(Form Shadow):物体そのものにできる濃淡のある陰り。
  • 投影影(Cast Shadow):物体が他の面や床に落とす影。
  • 反射光(Reflected Light):影の中に反射して届くかすかな光。
  • 中間トーン(Midtone):光と影の中間にある柔らかな明るさ。

これらを踏まえたうえで、次のセクションからは光の方向ごとの影の違いについて具体的に見ていきましょう。

2. 光の方向と影の特徴

2-1. 正面光(フロントライト)

特徴

  • 光源が視点と同じ方向にある状態。
  • 影は物体の後ろに隠れ、見えにくい。
  • コントラストが低く、全体がフラットな印象に。

効果的な使い方

  • ポートレートや静物で、柔らかく穏やかな印象を与えたいときに。
  • 初心者にも描きやすいが、立体感は出にくい。

2-2. 側面光(サイドライト)

特徴

  • 光源が左右どちらかから当たる。
  • 明暗のコントラストが明確に出る。
  • 影が横方向に伸び、立体感が強調される。

効果的な使い方

  • 顔の陰影や風景画などで奥行きを出すのに最適。
  • 特に人物画では「レンブラントライティング」に代表されるような陰影が美しく表現できる。

2-3. 逆光(バックライト)

特徴

  • 光源が物体の背後にある。
  • 本体はシルエットになりやすく、輪郭が光で縁取られる。
  • 前面に深い影ができる。

効果的な使い方

  • ドラマチックな印象を出したいときに有効。
  • 朝焼けや夕焼けの風景表現にも向いている。

2-4. 斜光(斜め上からの光)

特徴

  • 上斜めから光が当たる自然なライティング。
  • 影が斜めに伸び、最もリアルな印象を与える。
  • 多くの自然光の再現に適している。

効果的な使い方

  • 日常的な室内光や屋外光に忠実な表現を求める作品。
  • モデルや静物の写実的な描写に向いている。

2-5. 真上からの光(トップライト)

特徴

  • 影が下に強く落ちる。
  • 頭頂部が最も明るく、下部にかけて急に暗くなる。
  • コントラストが強い場合、恐怖感や緊張感を与えることも。

効果的な使い方

  • 演出効果の高いシーン、あるいは真夏の直射日光を再現したいときに。
  • 顔の立体構造を強調したい時などにも有効。

3. 描画に活かす影の表現テクニック

3-1. 影の境界をコントロールする

  • 強い光源(例:直射日光)では、影の輪郭がはっきりとし、コントラストも強くなります。
  • 柔らかい光源(例:曇り空や拡散光)では、影の輪郭がぼんやりとし、グラデーションが滑らかになります。

この違いを意識することで、物体の材質や光の性質も表現できます。

3-2. 影の濃さと距離の関係

  • 光源と物体の距離が近いと、影は濃くはっきりします。
  • 光源が遠いと、影は薄くなり、輪郭もあいまいになります。
  • 投影された影の先端は、元の形から広がっていくことが多いです。

3-3. カラフルな影を描く

現実の影は黒一色ではなく、周囲の色や反射光を含んでいます。たとえば、夕日の影にはオレンジや紫が混ざることもあります。作品の雰囲気や色調に合わせて、影色も工夫してみましょう。

4. さまざまなアートジャンルにおける影の使い方

4-1. 写実絵画における影

古典絵画では、光と影の描写が非常に重要視されました。カラヴァッジョやフェルメールの作品には、側面光や斜光を利用した劇的な明暗の対比が見られます。

4-2. 印象派の影

印象派では、黒い影ではなく、青や紫、緑などの色を使って光と影を描きました。モネやルノワールは、自然光の中での色の変化を重視しています。

4-3. 現代アートでの影の活用

現代では、影をデザイン的要素や抽象的な演出として用いる作家も多くいます。写実にとらわれず、心理的・象徴的な表現として影を使うことも可能です。

5. 練習方法とおすすめ課題

5-1. ボールや立方体を使った光源別の練習

  • 単純な形を用意し、光源の方向を変えながら影を描き分ける。
  • 光の当たる面、影になる面、投影影を意識して塗り分ける。

5-2. 自然光で観察スケッチ

  • 午前・午後・夕方と時間帯を変えて、影の違いをスケッチ。
  • 天候によって光と影の印象がどう変化するかを観察。

5-3. シルエットと輪郭光の研究

  • 逆光の場面で人物や物体のシルエットを描き、光の縁取りを表現。
  • 暗い中で光が際立つ「リムライト」も合わせて練習。

6. まとめ:光の方向を理解すれば、表現は一段と深まる

光の方向を理解し、影を的確に描くことは、絵画における立体感と空間表現の要です。ただリアルに描くだけでなく、演出効果や感情表現にもつながる重要な要素であることを忘れないでください。

光と影を使いこなせば、あなたの作品はさらに説得力を持ち、鑑賞者の心を惹きつけることでしょう。

ABOUT US
満園 和久
3歳の頃、今で言う絵画教室に通った。その絵の先生はお寺の住職さんであった。隣町のお寺で友達の3歳児とクレヨン画を学んだ。 それ以降も絵を描き続け、本格的に絵画を始めたのは30歳の頃。独学で油彩画を始め、その後すぐに絵画教室に通うことになる。10年ほどの間、絵画教室で学び、団体展などに出展する。 その後、KFSアートスクールで学び油彩画からアクリル画に転向しグループ展や公募展等に出品し続け現在に至る。 ここ20年程は、「太陽」「富士山」「天使」をテーマにして絵画を制作。 画歴は油彩を始めてから数えると35年になる。(2024年現在) 愛知県生まれ 愛知県在住 満園 和久 (Mitsuzono Kazuhisa)