絵の具を厚く盛る技法(インパスト)とは?

インパスト技法の概要

「インパスト(impasto)」とは、絵の具を厚く盛り上げて塗る技法のことを指します。イタリア語で「練ったもの」や「ペースト状のもの」を意味するこの言葉は、美術用語としては、絵画において絵の具を筆跡が残るほど分厚く塗る表現方法として使われています。

この技法の最大の特徴は、絵の具自体の立体感や質感を活かし、見る者に強烈な視覚的・感覚的印象を与えることです。特に光の当たり方によって影が生まれ、作品にドラマティックな効果や動きが感じられるのも魅力です。

インパスト技法の歴史的背景

インパスト技法は、バロック時代から多くの画家によって用いられてきました。たとえば、レンブラントは肌の質感や布の重厚感を出すためにインパストを活用し、彼の肖像画には微細な筆致とともに力強い絵の具の盛り上がりが見られます。

また、19世紀には印象派の画家たち、特にフィンセント・ファン・ゴッホがこの技法をさらに発展させました。ゴッホの作品に見られる力強い筆触と渦を巻くような絵の具の流れは、まさにインパストの典型と言えるでしょう。

現代では、抽象表現主義の画家やコンテンポラリーアートの作家たちもインパスト技法を取り入れ、表現の幅を広げています。

インパスト技法の主な使用目的と効果

立体感と質感の演出

インパストは、平面であるキャンバス上に立体的な印象を生み出します。厚く塗られた絵の具の凸凹が、物理的な影を作ることで、光の変化によって異なる表情を見せるのです。

感情表現の強化

厚みのある筆致やナイフの跡は、作者の感情や動きをダイレクトに表現します。力強さや激しさ、あるいは静けさなどを、絵の具の厚みによって伝えることができます。

視線誘導と構図のアクセント

画面全体に均等にインパストを施すのではなく、部分的に使うことで視線を誘導したり、構図のアクセントとして機能させることも可能です。

使用される画材と道具

インパストを行うには、以下のような画材と道具が適しています。

アクリル絵の具・油絵の具

油絵の具は、乾燥が遅いため厚塗りしてもヒビ割れにくく、インパストに最適です。一方、アクリル絵の具は乾燥が早いため、盛り上げながら描くにはメディウムの併用が必要です。

パレットナイフ

筆よりもナイフの方が大胆なタッチを表現しやすく、重ね塗りや削りの表現も可能です。絵の具をケーキのクリームのように塗ることで、独特の質感が生まれます。

インパストメディウム

アクリル絵の具を使用する場合は、インパストメディウムを加えることで絵の具の粘度を高め、盛り上げ表現を可能にします。また、乾燥後の割れや退色を防ぐ効果もあります。

インパスト技法の実践ポイント

下地作り

インパストは厚塗りするため、強固な下地が必要です。キャンバスにジェッソをしっかり塗り込み、乾燥させておくことで、絵の具の定着力が高まります。

レイヤー構築

一気に厚く塗り重ねるのではなく、徐々にレイヤーを重ねていくことが重要です。特にアクリルの場合は、下層がしっかり乾いてから次の層を塗ることで、ヒビ割れを防ぐことができます。

意図的な筆致

インパストは偶然性も含みますが、筆の動きやナイフの軌道を意識することで、より効果的に感情を表現できます。リズム感や流れを持たせると、作品の完成度が高まります。

インパスト技法が活きるモチーフとテーマ

抽象画

形にとらわれない抽象表現は、インパストとの相性が抜群です。感情や音楽、自然のリズムを視覚化するのに適しています。

風景画

山肌の岩のごつごつ感、波のうねり、木々の葉のざわめきなど、自然の立体感を表現するのにインパストは効果的です。

ポートレート

表情や肌の質感、衣服の厚みを強調するために、インパストはポートレートにもよく用いられます。見る者に強い印象を残すことができます。

インパスト作品の保管と注意点

インパスト作品は厚みがあるため、乾燥や保管にも注意が必要です。

乾燥時間の確保

油絵の場合は完全乾燥まで数週間から数ヶ月かかることもあります。乾燥中のホコリや衝撃にも注意しましょう。

フレーム選び

厚みのある作品は通常の額装に収まらない場合があるため、立体的な額やスペーサーを活用するとよいでしょう。

梱包と輸送

突起部分が損傷しやすいため、プチプチやクッション材でしっかり保護する必要があります。

まとめ:インパスト技法の魅力と活用方法

インパスト技法は、単に絵の具を厚く塗るだけではなく、画面全体に力強さや動きを与える表現方法です。筆やナイフのタッチ、絵の具の質感、光の反射など、視覚だけでなく触覚的な感覚までも訴えることができます。

また、インパストはアート作品としての存在感を高め、インテリアやギャラリー展示でもひときわ目を引く仕上がりになるため、作品販売の際にも強い武器になります。

初心者の方でも、アクリル絵の具+メディウムで簡単にチャレンジできるので、ぜひ一度試してみてください。自分の感情や世界観を、厚みのある絵の具に込めて表現してみましょう。

ABOUT US
満園 和久
3歳の頃、今で言う絵画教室に通った。その絵の先生はお寺の住職さんであった。隣町のお寺で友達の3歳児とクレヨン画を学んだ。 それ以降も絵を描き続け、本格的に絵画を始めたのは30歳の頃。独学で油彩画を始め、その後すぐに絵画教室に通うことになる。10年ほどの間、絵画教室で学び、団体展などに出展する。 その後、KFSアートスクールで学び油彩画からアクリル画に転向しグループ展や公募展等に出品し続け現在に至る。 ここ20年程は、「太陽」「富士山」「天使」をテーマにして絵画を制作。 画歴は油彩を始めてから数えると35年になる。(2024年現在) 愛知県生まれ 愛知県在住 満園 和久 (Mitsuzono Kazuhisa)