テンペラ画の魅力と注意点|卵テンペラの特徴と美しい作品を長く楽しむためのポイント

サンドロ・ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』

絵画に使われる画材には、油絵具、アクリル絵具、水彩絵具、パステルなど、さまざまな種類があります。

その中でも、長い歴史を持つ絵画技法の一つが「テンペラ」です。

テンペラ画を見ると、

「テンペラとはどのような絵具なの?」

「本当に卵を使って絵を描くの?」

「油絵とは何が違うの?」

「テンペラ画は長期間保存できるの?」

と疑問を持つ方もいるでしょう。

テンペラにはいくつかの意味がありますが、現在「テンペラ画」という場合、代表的なのが卵黄を媒材として使用する「卵テンペラ」です。

卵テンペラは、細かな筆触を重ねながら描くことができ、顔料の色を比較的明瞭に見せやすいという特徴があります。

一方で、乾燥が速いことや、支持体・下地の準備が重要であることなど、制作には独特の注意点があります。

この記事では、テンペラ画とはどのようなものなのか、その魅力と注意点、作品を購入して長く楽しむために知っておきたいポイントまでわかりやすく解説します。

テンペラ画とは?

「テンペラ」という言葉は、厳密には卵だけを使った絵具を意味するわけではありません。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーでは、広い意味でテンペラは複数の絵画用媒材を含む言葉ですが、現在では一般的に、卵黄を媒材とする「卵テンペラ」を指すことが多いと説明しています。

卵テンペラでは、基本的に顔料と卵黄、水などを組み合わせて絵具をつくります。

つまり、

顔料=色のもと

卵黄=顔料を画面へ定着させる媒材

という関係です。

ナショナル・ギャラリーでも、卵黄と水、顔料を混ぜて卵テンペラ絵具をつくる方法が紹介されています。

卵を使うと聞くと意外に感じるかもしれませんが、卵テンペラには長い歴史があります。

中世からルネサンス期のイタリア絵画でも重要な技法として使われ、多くの板絵が制作されました。

テンペラ画の魅力① 顔料の色を生かした表現

卵テンペラの魅力の一つが、顔料そのものの色を比較的明瞭に見せやすいことです。

メトロポリタン美術館では、中世イタリアの絵画制作について、卵黄と顔料を混ぜて使用するテンペラが、明るく純粋な色彩を生み出す絵具として説明されています。

実際、ナショナル・ギャラリー所蔵の「ウィルトン・ディプティク」でも卵テンペラが使われ、天然ウルトラマリンなどの顔料の純粋な色を生かした表現が確認されています。

油絵具には油絵具独特の深みや透明感がありますが、テンペラにはテンペラならではの明瞭な色彩があります。

どちらが優れているということではなく、媒材の違いによって作品の見え方が変わります。

テンペラ画の魅力② 細かな描写に向いている

卵テンペラは乾燥が速いため、油絵のように画面上の濡れた絵具を長時間混ぜ続ける描き方には向いていません。

その代わり、

細い線

小さな筆触

薄い色の層

細かなハッチング

などを繰り返し重ねながら形や明暗をつくることができます。

メトロポリタン美術館の技法資料でも、卵テンペラは乾燥が速く、滑らかなグラデーションを混色だけでつくることが難しいため、薄い絵具を小さな筆触で幾層にも重ねる方法が使われたと説明されています。

例えば人物の肌であれば、一度に肌色を完成させるのではなく、

下地をつくる
↓
薄い色を重ねる
↓
細かな筆触を加える
↓
明るい部分や暗い部分を調整する

というように、段階的に描写を深めていくことができます。

この積み重ねが、テンペラ画独特の緻密な表現につながります。

テンペラ画の魅力③ 長い歴史を持つ技法

テンペラ画の魅力は、完成した作品の見た目だけではありません。

非常に長い歴史を持つ絵画技法であることも特徴です。

ナショナル・ギャラリーによれば、卵テンペラは古代から使用され、初期イタリア絵画の多くにも使われています。

15世紀後半のイタリアでは油彩と組み合わせて使われることもありましたが、1500年以降は以前ほど一般的ではなくなっていきました。

一方、テンペラが完全に過去の技法になったわけではありません。

20世紀にも卵テンペラを使用した画家が存在します。

例えば、メトロポリタン美術館が所蔵するトーマス・ハート・ベントンの「America Today」では、卵黄を使って卵テンペラ絵具が制作されたことが記録されています。

つまりテンペラは、歴史的な絵画だけに限定された技法ではありません。

油絵との大きな違いは「媒材」

テンペラ画と油絵の大きな違いの一つが、顔料を画面へ定着させる媒材です。

代表的な卵テンペラでは卵黄を使用します。

一方、油絵具ではリンシードオイルなどの乾性油が使われます。

この違いによって、絵具の扱い方にも差が生まれます。

卵テンペラは比較的乾燥が速いため、細かな筆触や薄い層を重ねながら描く方法に向いています。

油絵具は比較的乾燥が遅いため、濡れた絵具同士を画面上で混ぜたり、滑らかな色の変化をつくったりする時間を取りやすいという違いがあります。

そのため、

「テンペラは昔の油絵」

という理解は正確ではありません。

媒材も描き方も異なる絵画技法です。

アントニオ・デル・ポッライオーロ『若い婦人の横顔』

テンペラ制作では下地が重要

伝統的な卵テンペラの板絵では、木の板へ直接絵具を塗るのではなく、下地を整えてから制作する方法が使われてきました。

中世イタリア絵画では、木製パネルの上へ石膏などを含むジェッソの層を施し、その上へ下描きや彩色を行った例があります。

テンペラ絵具の塗膜だけを見るのではなく、

支持体

下地

絵具

という複数の層によって作品が構成されていることを理解することが大切です。

現代のテンペラ制作でも、使用する支持体や下地については、採用する技法や材料に適した方法を確認する必要があります。

乾燥が速いことは長所でもあり注意点でもある

卵テンペラの速乾性は、制作を進めるうえで便利な面があります。

塗った色が乾けば、その上へ次の色を重ねられるからです。

しかし同じ特徴が、制作上の難しさにもつながります。

油絵のように、

色を置く
↓
画面上で長時間混ぜる
↓
境界を少しずつぼかす

という描き方には向いていません。

そのため、滑らかな明暗をつくりたい場合でも、小さな筆触や薄い層を積み重ねながら徐々に変化させる必要があります。

速く乾くことは単純な「扱いやすさ」ではなく、作品の描き方そのものを決める重要な性質なのです。

「テンペラ画=すべて同じ材料」ではない

作品を購入するときに注意したいのが、「テンペラ」という表記だけで材料を完全に判断しないことです。

Getty Research Instituteの美術用語資料では、テンペラには卵黄を基本とするものだけでなく、全卵、油、カゼイン、ガム、ワックスなどを関係させたさまざまな種類があることが示されています。

また、近現代には市販のテンペラ絵具も存在し、その成分は伝統的な卵黄だけのテンペラとは異なる場合があります。

そのため作品を購入するときは、

卵テンペラなのか

市販のテンペラ絵具なのか

ほかの媒材を組み合わせているのか

支持体は何なのか

など、作家や販売者の作品説明を確認するとよいでしょう。

テンペラ画を長く楽しむために

歴史的な卵テンペラ作品には、数百年を経て現在まで残っている例があります。

Getty Conservation Instituteの保存資料でも、中世の卵黄を使った絵画には良好な状態で残っている作品が多く、卵黄は天然の結合材の中でも安定性の高いものの一つであることが示されています。

ただし、

「卵テンペラなら必ず何百年も劣化しない」

という意味ではありません。

作品の保存状態は、

使われている顔料

支持体

下地

制作方法

光

温度

湿度

過去の修復

など、さまざまな条件によって変わります。

購入後は直射日光や極端な高温多湿を避け、作品に強い衝撃や摩擦を与えないよう扱うことが基本になります。

古い作品や高価な作品に汚れや損傷が生じた場合は、自己判断で水や洗剤を使って清掃せず、必要に応じて専門家へ相談することが安全です。

まとめ|テンペラならではの繊細な色彩と筆触を楽しむ

テンペラ画、特に卵テンペラは、顔料と卵黄を中心とした媒材を組み合わせて描く、長い歴史を持つ絵画技法です。

顔料の色を生かしやすく、細かな筆触や薄い層を積み重ねて描けることが大きな魅力です。

一方で、乾燥が速いため油絵のような混色とは異なる技術が必要で、支持体や下地も作品づくりに重要な役割を持っています。

また「テンペラ」と呼ばれる材料がすべて同じ成分とは限りません。

作品を購入するときは、技法名だけで判断せず、使用されている材料や支持体についても作品説明を確認すると、その作品をより深く理解できます。

絵画には、テンペラ、油彩、アクリル、水彩など、画材ごとに異なる魅力があります。

画材や技法を知ったうえで作品を見ると、色彩だけでなく、一つひとつの筆触や制作工程にも目を向けられるようになります。

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ABOUT US
満園 和久
3歳の頃、今で言う絵画教室に通った。その絵の先生はお寺の住職さんであった。隣町のお寺で友達の3歳児とクレヨン画を学んだ。 それ以降も絵を描き続け、本格的に絵画を始めたのは30歳の頃。独学で油彩画を始め、その後すぐに絵画教室に通うことになる。10年ほどの間、絵画教室で学び、団体展などに出展する。 その後、KFSアートスクールで学び油彩画からアクリル画に転向しグループ展や公募展等に出品し続け現在に至る。 ここ20年程は、「太陽」「富士山」「天使」をテーマにして絵画を制作。 画歴は油彩を始めてから数えると35年になる。(2024年現在) 愛知県生まれ 愛知県在住 満園 和久 (Mitsuzono Kazuhisa)