フレスコ画の魅力と注意点|壁と一体になる伝統技法の特徴をわかりやすく解説

ラファエロ『アテナイの学堂』

絵画には、油絵、水彩画、アクリル画、テンペラ画、日本画など、さまざまな技法があります。

その中でも、建築物の壁と深く結びついた歴史ある絵画技法が「フレスコ画」です。

教会や宮殿などの壁画を見て、

「フレスコ画とは普通の絵と何が違うの?」

「なぜ何百年も残っている作品があるの?」

「漆喰が乾く前に描くというのは本当?」

と疑問を持つ方もいるでしょう。

フレスコ画の大きな特徴は、単に完成した壁へ絵具を塗るのではなく、漆喰そのものと絵画が密接に結びついていることです。

一方で、制作時間、使用できる顔料、壁の状態、水分や湿度など、フレスコならではの注意点もあります。

この記事では、フレスコ画とはどのような絵画技法なのか、その魅力と注意点をわかりやすく解説します。

フレスコ画とは?

フレスコは壁画制作に使われる技法の一つです。

ロンドン・ナショナル・ギャラリーでは、代表的な方法として「ブオン・フレスコ」と「フレスコ・セッコ」を紹介しています。

ブオン・フレスコでは、壁に塗ったまだ湿っている漆喰の最終層「イントナコ」の上へ、水で溶いた顔料を使って描きます。

一方、フレスコ・セッコでは、乾燥した漆喰の上へ描きます。

つまり「フレスコ画」と呼ばれるものを理解するときには、

湿った漆喰に描く方法

乾燥した漆喰に描く方法

を区別することが重要です。

フレスコ画の魅力① 絵と壁が一体化する

ブオン・フレスコの大きな特徴が、絵具を後から壁へ貼り付けるような仕組みではないことです。

湿った石灰系の漆喰へ顔料をのせることで、漆喰が固まっていく過程と絵画制作が結びつきます。

カナダ保存研究所も、フレスコについて、石灰を用いた漆喰の上に顔料を施す歴史の古い絵画技法として説明しています。

完成した作品は「壁の上に絵がある」というだけではなく、壁面そのものが絵画を支える構造になります。

キャンバスや紙に描いた作品とは異なる、建築空間と一体になった表現が、フレスコ画ならではの大きな魅力です。

フレスコ画の魅力② 大きな壁面を作品にできる

フレスコ画では、建物の壁や天井などが作品を描く場所になります。

そのため、鑑賞者は小さな画面を正面から見るだけではなく、建築空間そのものの中で作品を見ることになります。

壁面の形、天井の高さ、窓や柱、鑑賞する位置なども、作品の見え方と関係します。

これは、持ち運ぶことを前提としたキャンバス画とは大きく異なる特徴です。

絵画と建築を切り離さず、一つの空間として表現できることもフレスコ画の魅力といえるでしょう。

フレスコ画の魅力③ 長い年月を経た作品が残っている

フレスコ画には、長期間残っている歴史的作品が数多くあります。

ただし、「フレスコ画なら必ず何百年も保存できる」という意味ではありません。

カナダ保存研究所はフレスコを耐久性の高い技法とする一方、壁の内部に存在する可溶性塩類や水分、湿度変化によって漆喰や彩色層が損傷することを説明しています。

つまり保存性は、

絵具だけ

ではなく、

漆喰
壁そのもの
建物の状態
水分
塩類
周辺環境

など複数の要素によって左右されます。

フレスコ画では「絵を保存すること」と「建築物を保存すること」が密接に関係しているのです。

レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』

注意点① 描ける時間に限りがある

ブオン・フレスコで特に重要なのが、湿った漆喰へ描かなければならない点です。

漆喰はいつまでも同じ状態ではありません。

そのため制作では、その日に完成させられる範囲だけ最終層の漆喰を塗って描き進めます。

ナショナル・ギャラリーでは、この一日に制作する範囲を「ジョルナータ(giornata)」と説明しています。

油絵のように、

翌日もう一度ゆっくり混色する

何日も同じ濡れた画面を修正し続ける

という描き方とは条件が異なります。

そのため、下絵や構図、作業手順などを事前に考えておくことが重要になります。

注意点② ブオン・フレスコとセッコでは性質が違う

歴史的な壁画では、すべての部分が同じ方法だけで描かれているとは限りません。

ブオン・フレスコで主要部分を描いたあと、乾燥後に細部をセッコで加えた例も確認されています。

ナショナル・ギャラリー所蔵作品の技法調査でも、ブオン・フレスコで制作し、細部をセッコで加えたと考えられる作品があります。

一方、乾燥した漆喰の上に描かれるセッコ層は、ブオン・フレスコとは顔料の定着方法が異なり、保存状態によっては剥離することがあります。

したがって「フレスコ画」という名称だけから、作品全体がまったく同じ方法で描かれていると判断することはできません。

注意点③ 水分と塩類による劣化

フレスコ画を保存するときに特に重要なのが、壁の状態です。

Getty Conservation Instituteによる壁画保存研究では、湿度の上昇によって漆喰内部の塩類が影響を受け、彩色された漆喰の表面や内部に劣化が生じる事例が確認されています。

つまり、

雨漏り
地下からの水分
壁内部の水分
湿度変化
可溶性塩類

などが壁画の保存に関係する場合があります。

そのため歴史的なフレスコ画の保存では、表面だけを修復すればよいとは限りません。

建物や壁内部の状態、温湿度、塩類など、劣化の原因を調査する必要があります。

フレスコ画は「壁そのものを見る絵画」

フレスコ画の魅力を理解するうえで大切なのは、単に「昔使われていた絵具」と考えないことです。

湿った漆喰へ顔料を施し、壁とともに作品を完成させる。

一日に描ける範囲を考えながら制作を進める。

そして完成後も、壁や建築物とともに作品を保存していく。

こうした特徴を知ると、フレスコ画を見るときにも、

「どのように描いたのだろう」

「壁と絵がどのようにつながっているのだろう」

「どこまでが一日の制作範囲なのだろう」

という新しい視点が生まれます。

フレスコ画は、絵画技法だけではなく、素材、時間、建築、保存までが一体となった表現です。

美術館や教会などでフレスコ画を見る機会があれば、描かれている人物や風景だけでなく、「壁そのものが作品を支えている」という点にも注目してみてください。

ミケランジェロ『最後の審判』

ABOUT US
満園 和久
3歳の頃、今で言う絵画教室に通った。その絵の先生はお寺の住職さんであった。隣町のお寺で友達の3歳児とクレヨン画を学んだ。 それ以降も絵を描き続け、本格的に絵画を始めたのは30歳の頃。独学で油彩画を始め、その後すぐに絵画教室に通うことになる。10年ほどの間、絵画教室で学び、団体展などに出展する。 その後、KFSアートスクールで学び油彩画からアクリル画に転向しグループ展や公募展等に出品し続け現在に至る。 ここ20年程は、「太陽」「富士山」「天使」をテーマにして絵画を制作。 画歴は油彩を始めてから数えると35年になる。(2024年現在) 愛知県生まれ 愛知県在住 満園 和久 (Mitsuzono Kazuhisa)