フィンセント・ファン・ゴッホ「ひまわり」
絵画に使われる画材には、アクリル絵の具、水彩絵の具、アクリルガッシュ、日本画絵の具など、さまざまな種類があります。
その中でも長い歴史を持ち、現在も多くの画家に使われている代表的な画材の一つが「油絵の具」です。
油絵を見ると、
「どうして独特の深みがあるのだろう」
「アクリル絵の具とは何が違うのだろう」
「なぜ乾くまで時間がかかるのだろう」
と疑問を持つ方もいるかもしれません。
油絵の具には、ゆっくり乾燥する性質を利用して色を混ぜたり、透明な色を重ねたり、絵の具を厚く盛り上げたりできる魅力があります。
一方で、乾燥時間、重ね塗りの方法、画用液の取り扱いなど、油絵ならではの注意点もあります。
この記事では、油絵の具の特徴と魅力、制作や作品を楽しむうえで知っておきたい注意点をわかりやすく解説します。
油絵の具とは?
油絵の具は、主に顔料をリンシードオイルやポピーオイルなどの植物油で練って作られた絵具です。
水彩絵の具やアクリル絵の具などでは水分が蒸発することによって乾燥しますが、油絵の具の場合は仕組みが異なります。
油絵の具は、乾燥ではなく乾性油が空気中の酸素と反応しながら徐々に固化していきます。
そのため、描いてすぐ完全に固まるわけではありません。
一方、油そのものが固化するため、水分の蒸発によって乾く絵の具とは違い、絵の具の厚みが乾燥後にも残りやすいという特徴があります。
この性質が油絵独特の表現につながっています。
油絵の具の魅力① ゆっくり色を混ぜながら描ける
油絵の具の大きな特徴が、比較的ゆっくり乾燥することです。
乾燥が速い画材の場合、一度塗った色が短時間で固まっていきます。
一方、油絵の具では画面上の絵具が乾くまで時間があるため、濡れている色同士を混ぜながら描くことができます。
例えば、
青から水色へ変化する空
夕焼けの赤からオレンジへの変化
肌の微妙な明暗
雲や霧の柔らかな境界
などを、画面上で色をなじませながら表現できます。
ただし、乾燥速度は色、使用する油やメディウム、塗膜の厚さ、温度などによって変化するため、「油絵具は必ず○○日で乾く」と一律には言えません。
油絵の具の魅力② 厚塗りによる立体的な表現
油絵では、絵の具を厚く置き、筆やペインティングナイフの跡を残す表現も可能です。
厚く盛り上げた絵具は、乾燥したあとにも物理的な凹凸として残ります。
例えば、
山肌
波
雲
花びら
建物
光が当たる部分
などに厚みを持たせれば、平面であるキャンバスの上に立体的な質感をつくることができます。
見る方向や照明の位置によって凹凸部分に光と影が生まれることも、厚塗りされた油絵の特徴です。
筆跡そのものを作品表現の一部として見せることができるのも、油絵の魅力といえるでしょう。

フィンセント・ファン・ゴッホ「日没の種まく人」

フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルの跳ね橋」
油絵の具の魅力③ 透明な色を重ねる表現もできる
油絵は厚塗りだけではありません。
薄く透明感のある色を重ねる「グレーズ」と呼ばれる方法もあります。
乾燥した下の色の上へ透明または半透明の色を薄く重ねることで、下層の色を完全に隠さずに見せることができます。
例えば、
下に黄色を塗る
↓
乾燥させる
↓
透明感のある赤を重ねる
というように複数の色層を組み合わせる方法があります。
単純にパレット上で二色を混ぜる方法とは異なり、複数の層を通して色を見ることになります。
作品を近くから観察すると、このような色の層や筆跡が見える場合があります。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「ピアノに寄る少女たち」
油絵の具の注意点① 乾燥には時間が必要
油絵の魅力である遅い乾燥は、同時に注意点でもあります。
作品表面が触れる程度まで乾いていても、厚い絵具の内部まで完全に固化しているとは限りません。
特に厚塗りした部分では、表面と内部で乾燥状態が異なる可能性があります。
「表面が乾いたから完全に乾燥した」と判断しないことが重要です。
また、乾燥促進剤や速乾性メディウムを利用する方法もありますが、何でも多く入れればよいわけではありません。
ホルベインも、シッカチフを過剰に使用すると乾燥速度のバランスが崩れ、亀裂や縮みなどにつながる可能性があると説明しています。
製品ごとの使用方法や使用量を確認する必要があります。
油絵の具の注意点② 重ね塗りには基本的な考え方がある
何層にも色を重ねる油絵では、それぞれの層の乾燥速度や柔軟性を考える必要があります。
代表的な考え方として「ファット・オーバー・リーン」があります。
簡単に説明すると、下の層より上の層を油分の多い、より柔軟な状態にして重ねていく方法です。
また、
薄い層の上に厚い層
乾燥の速い層の上に乾燥の遅い層
という順序も、塗膜のひび割れなどを防ぐための基本的な考え方として知られています。
厚い下層がまだ動いている状態で、その上に速く固まる層を作ると、乾燥過程の違いによって上層に問題が生じる可能性があるためです。
油絵の具の注意点③ 画用液は安全に取り扱う
油絵制作では、絵具だけでなく、植物油、溶剤、メディウムなどの画用液を使うことがあります。
使用する製品によって注意事項は異なるため、必ずメーカーの表示を確認しましょう。
特に重要なのが、リンシードオイルなどの乾性油が付着した布や紙の処理です。
ホルベインでは、植物油やシッカチフを含む画用液が付着した紙や布について、酸化反応による熱が蓄積すると発火する恐れがあると注意を呼びかけています。
使用済みの布や紙を丸めたまま放置するのではなく、メーカーが示す方法に従って安全に処理する必要があります。
溶剤を使用する場合にも、製品ラベルに記載された換気や保管などの注意事項を守ることが大切です。
油絵作品を見るときは「色」だけでなく「絵具の層」に注目する
油絵を見るときには、描かれているモチーフだけでなく、絵具そのものにも注目してみると作品の楽しみ方が広がります。
例えば、
筆跡が残っている部分
厚く盛り上がっている部分
薄く透明に重ねられた部分
下の色が透けて見える部分
滑らかに色が混ざっている部分
などです。
少し離れて作品全体を見る場合と、近くから絵の具の表情を見る場合では、同じ作品でも違った発見があります。
油絵は「何が描かれているか」だけではなく、「どのように絵の具が置かれているか」まで鑑賞できる絵画です。
まとめ|油絵の具は時間をかけて色と質感をつくる画材
油絵の具は、顔料を植物油で練り、油が酸化することで徐々に固まっていく絵の具です。
乾燥が比較的ゆっくりしているため、
色を画面上で混ぜる
滑らかなグラデーションをつくる
透明な色を重ねる
絵具を厚く盛り上げる
筆やナイフの跡を残す
など、さまざまな表現ができます。
一方、遅い乾燥、重ね塗りの順序、画用液の扱いなどには油絵特有の注意点があります。
油絵作品を見るときには、色やモチーフだけでなく、絵の具の厚みや筆跡、透明な色の重なりにも目を向けてみてください。
作品がどのように描かれているのかを知ることで、絵を見る楽しみはさらに広がります。













