木版画の魅力と注意点|版を彫り、摺ることで生まれる独特の表現をわかりやすく解説

葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」

絵画や版画には、油絵、水彩画、銅版画、リトグラフ、シルクスクリーンなど、さまざまな技法があります。

その中でも、木という素材を版として利用して作品をつくる技法が「木版画」です。

木版画という言葉を聞くと、葛飾北斎や歌川広重などの浮世絵を思い浮かべる方も多いでしょう。

しかし木版画は、歴史的な浮世絵だけの技法ではありません。現在でも作家自身が版木を彫り、摺りながら制作する現代木版画があります。

木版画を見ると、

「普通の絵とは何が違うの?」

「同じ作品を何枚もつくれるの?」

「浮世絵と木版画は同じものなの?」

「購入した木版画はどのように保存すればよい?」

と疑問を持つ方もいるでしょう。

この記事では、木版画とはどのような技法なのか、その魅力と注意点、さらに作品を購入して長く楽しむために知っておきたいポイントまでわかりやすく解説します。

木版画とは?

木版画は、木の板を版として使用する版画技法です。

代表的な方法では、木の表面から印刷しない部分を彫り下げ、残った凸部分へ色材を付け、その上へ紙を置いて圧力を加えることで像を写し取ります。

このような仕組みは「凸版」と呼ばれます。

メトロポリタン美術館も木版について、彫刻刀などによって木を彫り、残された高い部分へインクを付けて印刷する凸版技法として説明しています。

考え方としては、

絵を考える
↓
版木へ図柄を移す
↓
印刷しない部分を彫る
↓
版へ色材を付ける
↓
紙を重ねる
↓
圧力を加えて摺る

という流れになります。

ただし、木版画には地域や時代、作家によってさまざまな制作方法があります。

一色だけで摺る作品もあれば、複数の版を使い、多くの色を重ねて一枚の作品を完成させるものもあります。

木版画の魅力① 彫りから生まれる線を楽しめる

木版画の大きな魅力の一つが、版を「彫る」という工程から生まれる独特の線や形です。

筆で紙へ直接線を描く場合とは異なり、木版画では彫刻刀などを使って版木を削ります。

そのため、

太い線
細い線
鋭い形
大胆な面
細かな模様

などを、彫りによってつくることができます。

どこを残し、どこを彫るのかによって完成する図柄が変わるため、「描く」だけではなく「取り除く」という考え方が作品制作に加わります。

これは木版画ならではの面白さです。

木版画の魅力② 色を重ねて一枚の作品をつくれる

多色木版では、複数の色を重ねながら作品を完成させる方法があります。

東京国立博物館では、浮世絵の多色摺りについて、複数の版を何度も摺り重ねることで一枚の作品を完成させる仕組みを紹介しています。

例えば、

黒い線
青い空
赤い着物
黄色い模様

という色をそれぞれ別の版で摺る場合、同じ紙へ正確に重ねなければなりません。

日本の伝統的な木版では、「見当」と呼ばれる位置合わせの仕組みが使われます。

英国博物館も、日本の木版画では版木に設けた見当を利用して、異なる色の版を同じ位置へ合わせて摺る方法を紹介しています。

わずかな位置の違いでも完成した画像に影響するため、多色木版には彫りだけでなく、高度な摺りの技術も必要になります。

木版画の魅力③ 摺りによる表情が生まれる

木版画では、版をつくっただけでは作品は完成しません。

版へ色材を付け、紙へ摺る工程によって初めて画像が現れます。

特に手摺りでは、

色材の量
水分
紙の状態
摺る圧力
色の重ね方

などによって結果が変わる場合があります。

日本の木版画では、馬連(ばれん)を使い、紙の裏側からこすって摺る方法があります。

英国博物館も、日本の木版画について、馬連を使って紙の裏から圧力を加え、版木の色を紙へ移す方法を説明しています。

そのため木版画では、「版を彫る技術」と「摺る技術」の両方を見ることが鑑賞の楽しみになります。

浮世絵と木版画は同じもの?

「木版画=浮世絵」と考えられることがありますが、厳密には同じ意味ではありません。

浮世絵には木版画だけでなく、絵師が直接筆で描いた「肉筆浮世絵」もあります。

東京国立博物館でも、江戸時代初期には肉筆画があり、その後、版画や多色摺りの錦絵が発展したことが説明されています。

つまり、

木版画=技法の名称

浮世絵=江戸時代を中心に発展した美術の一分野

と分けて理解するとわかりやすくなります。

浮世絵版画の多くに木版技法が利用されていることは確かですが、すべての木版画が浮世絵というわけではありません。

木版画は「原画」なのか?

作品を購入するときに迷いやすいのが、「木版画は原画なのか」という問題です。

木版画は、一枚の画面へ直接絵具を塗って完成する油絵や水彩画とは制作方法が異なります。

版を制作し、その版から紙へ摺ることによって作品が生まれます。

そのため同じ版から複数枚を制作することが可能です。

ただし、版画作品だからといって単純に「コピー」と考えるのは適切ではありません。

版そのものを制作し、決められた工程で摺ることが版画という美術表現だからです。

現代版画では、作品によってエディション番号が記載される場合があります。

例えば「10/50」と表示されていれば、一般には限定50部のうちの一枚であることを示します。

ただし、すべての木版画にエディション番号があるわけではありません。

購入時には、制作年代、作者、摺りの時期、エディション、サインなど、販売者が提示している作品情報を確認することが重要です。

木版画を購入するときの注意点

木版画を購入するときは、作品画像だけで判断せず、作品情報を確認しましょう。

特に、

作者名
作品名
制作年代
技法
紙の種類
作品サイズ
エディションの有無
サインの有無
額装の有無
作品の状態

などを確認します。

歴史的な木版画では、制作当時の摺りなのか、後世に同じ版を使って摺られたものなのかなどによって意味が異なる場合もあります。

情報が明示されていない場合には、推測せず販売者へ確認することが大切です。

木版画を飾るときは光と湿気に注意する

木版画の多くは紙を支持体としているため、飾り方にも注意が必要です。

カナダ保存研究所では、紙作品に対する光による損傷は元に戻すことができないため、窓や天窓から直射日光が当たる場所を避けるよう案内しています。

また、紙は湿度の影響を受けやすく、高湿度では波打ちやカビなどの問題につながる可能性があります。

そのため、

直射日光が当たる場所
湿気の多い場所
温度や湿度が大きく変化する場所

はできるだけ避けて飾ります。

額装する場合には、作品をガラスやアクリル板へ直接密着させず、適切なマットなどを使用する方法もあります。

作品ごとに使用されている紙や色材、状態が異なるため、貴重な作品については専門家へ保存・額装方法を相談することも選択肢になります。

まとめ|木版画は「彫る・摺る」工程まで楽しめる版画

木版画は、木の版を彫り、残した部分へ色材を付け、紙へ摺ることで作品を生み出す版画技法です。

筆で直接描く絵画とは異なり、

どこを彫るのか
どこを残すのか
どの色を重ねるのか
どのように摺るのか

という複数の工程が作品の表現につながっています。

さらに、日本の多色木版では、複数の版を正確に重ねることで豊かな色彩表現が生み出されてきました。

木版画を見るときには完成した絵柄だけでなく、線、色の重なり、摺りの状態などにも注目すると、より深く作品を楽しむことができます。

そして購入後は、直射日光や過度な湿気を避け、紙作品として適切な環境で飾ることが大切です。

ABOUT US
満園 和久
3歳の頃、今で言う絵画教室に通った。その絵の先生はお寺の住職さんであった。隣町のお寺で友達の3歳児とクレヨン画を学んだ。 それ以降も絵を描き続け、本格的に絵画を始めたのは30歳の頃。独学で油彩画を始め、その後すぐに絵画教室に通うことになる。10年ほどの間、絵画教室で学び、団体展などに出展する。 その後、KFSアートスクールで学び油彩画からアクリル画に転向しグループ展や公募展等に出品し続け現在に至る。 ここ20年程は、「太陽」「富士山」「天使」をテーマにして絵画を制作。 画歴は油彩を始めてから数えると35年になる。(2024年現在) 愛知県生まれ 愛知県在住 満園 和久 (Mitsuzono Kazuhisa)